「常磐線中心主義」をよみました
この記事を目にして、「常磐線中心主義」という本を読みました。
上京してきた人にとっては首都圏で一番耳馴染みが無かろうと思われる路線。実際に沿線に住まう身からしてもそうだろうと思います。そうしたイメージをしっかり描き出した上で語りを始めています。
数字などに表れないそうした空気を描き出すのは地元の人でなければ違和感を覚えるものですが、この本の著者はそれぞれ章ごとに地元出身の方を起用しています。
ですから、私の地元柏のチャプターでは「ああ確かにそういう面あるよね」「そういう活動していたんだ!」ということが素直に頭に入ってきますし、よその地域もそうなんだろうと思うことができます。
この本の目的は、等身大の承認か
読み終えて感じ取ったのは、著者の「危機感」でした。
「東京の下半身」という言い方をこの本ではしています。「特段のイメージの無さ」とは裏腹に、茨城県では農産物の最大の出荷地としての役割を果たし、生活に最も欠かせない日用品―――電気の生産地でもあるからです。
そういえば、小学校の頃「近郊農業」という単語を社会科で習ったことを思い出しました。
けれど、常磐線沿いの人はそれに不満を持つわけでもなく、ブランド化=イメージが作られないこと自体がブランドであるとこの本ではいわきの蒲鉾の一件から主張しています。
しかし、そのあとに続くのは、富岡駅の語り。常磐線の物語は平成23年以降必ず福島第一原子力発電所の一件を絡めて語られるようになりましょう。
そうなるとどういうことになるかと言いますと、
と首都圏ではイメージが固定されることになるのです。上野から仙台までの362.9キロメートルに対するイメージが漢字5文字で十把一絡げにされるのです。危ぶまれたことでしょう。
そうではなく、名の無い様々がこの路線にはある。もっと自分の目で見てありのままを見て等身大の常磐沿線を知ってほしい。そういうことが言いたいのだというふうに思いました。
手引きが欲しい
私としては、東葛五市に対するイメージはあります……が常磐線に対するイメージというとなかなか湧きにくいのが実感です。実際問題土浦以北へ行ったことがありません。
本から言いたいことは何となく分かりましたが、しかしイメージが確立されていない町をつぶさに見ていくことは時間的に難しいです。「常磐線のこと何も知らなかった!なんか知ろうとしよう」と思った場合に読者が知る取っ掛かりが無いのがどうにも手落ちな気がしてなりません。
しかし、そういうのはきっと別の刊行物が果たすべき役割なのだろうとも思います。この本は、あくまで常磐沿線に対する興味喚起を図るに過ぎないと思います。
では、要るのは何か。
これは喚起した後に何をするかによって変わりましょう。観光地化やブランド化がされていないのを悔やんだり悲しんだりするわけではなく、悪評がついて日常が歪められることへの回避が意図ですから、
- 東京の重力圏内で淡々と暮らす人の物語
- 暮らす中でのちょっとした嬉しい事・嬉しい物
というのが案内できる手引きがあればいいのではないかと思います。
上記の「案内できる手引き」の要件からは外れると思いますが、私鉄の場合は沿線の空気に触れられる沿線ガイドがあるので羨ましいです。
そうしたものが無いのも常磐線は常磐炭鉱の炭を運ぶ大命を背負った国鉄の路線であることにちなむわけで、これも因果からでしょうか。
JR東日本松戸地区がこういうのを手掛けるとは思えないので、アートラインプロジェクトの皆様で作ってほしいなーと勝手に思ったりしています。むしろWeb版だったら作りたい。
柏の章での千葉県の存在の薄さ
「常磐線中心主義」にもちらっと出てきた「あしたの今日子さん」。私はキャラクターの名付けに違和感あるんですよね。
名字が県内の市町村といいますが、普段常磐線やTXで通勤通学していたら思い浮かばない市町村ばかりで。
県の枠組みってそこまで意識する? という疑問を思ったりしています。
こういう見方からすると「常磐線中心主義」で柏のチャプターを違和感なく読めたのは、「千葉らしさ」が全く出なかったからかもしれません。
除染という地域に特化した問題という話題柄もあったと思いますが、それ以外でも千葉県庁の存在は完全オミットされていました。茨城県は常磐線の通らない鹿行の特産品まで紹介するのとは対比的でよくよく考えると面白いです。
ですが、「千葉県」の存在の無いことこそ柏の日常ということで腑に落ちる書き方です。
ららぽーと柏の葉の場内アナウンスで「つくばみらい市からお越しの~」と聞くのもままあることです。卑近な話で言えば、小学校の頃の友人はご家族が取手市役所に勤めてました。
逆に私なんかは家具で困ったら、守谷のジョイフル本田へ行きますし、遊びでしたら新三郷やレイクタウンも考えられます。
東葛エリアは県境を越えて流動があるのです。
私の「あしたの今日子さん」への違和感は、近い常総・埼葛の地名がスルーされて遠い県内の地名が採用されていることだと思います。*1
常磐線に限らず、国道6号や常磐道など東京と水戸や浜通りとの往来の途上に柏はあるのですから、県の枠組みを意識せずに沿線・沿道という考え方で進めていくほうが実態に即した見え方ができると思いますし、盛り上げるにせよ必要な考え方だと思います。
そうした意味で柏について現状把握するのにも良い本なのではと感じます。
*1:県内縛りは幕張へのオマージュを意図している気もします