丘と谷津の硲に憩う

あちこちほっついて身に覚えたことをしたためようと

TXの与えたもの

今こんな本を読んでる。

基本的に論考風のエッセイだ。2002年という出版年を考慮しなければ、むしろ図書でなくはてなダイアリーに上梓すべきクオリティー。
まあ、

東京武道館(カッコ内中略)、葛西臨海公園江戸東京博物館、そろってアクセスの悪い都心の東側に産み落とされたこれらのプロジェクトは、順調に巨大な金食い虫に育っている。

と東側に住まう人間の気分を効率よく害してくれる書き方はいたく素晴らしいものだとおもいます。
少なくとも江戸博は都心から近くて便利だろう。綾瀬の武道館は論外だが。
これが上梓されてから8年。その間に何があったか。

TX開業

これは大きかろう。
なにぶん触れ込み自体が―――――浸透したふれこみだとは思わないが―――――「首都圏最後の通勤新線」というたいそうなものだったからだ。
だが、TXの路線自体はそれほどでもない。TXの線路が置かれた都心側の地区に着目すべきものがある。

  • 北千住

これだ。鬼門の方面として上野の地は前々知られていたが、その実は千住にあったことは意外とみんな気付かなかった。忘れていたのかもしれない。
TX開業という輝きの影に巨大なジャンクション(乗換駅)としての北千住駅が目に映ったのだろう。
実際、常磐線(快速)から千代田線への乗り換え、東武線からの千代田線乗り換え、日比谷線乗り換え等という巨大なラッチ外*1流動がある。これは決して2005年に起こった動きでなく高度経済成長期からのものだ。
北千住駅の日比谷線ホーム立体化はその証拠だ。
でも、大手町や副都心に本拠を構える大企業様はそれに気付いていたか?正直訝しい。
電大の北千住キャンパス、理大の金町キャンパス―――――出遅れた(?)都心脱出組はいづれも西側から東側にシフトしている。
都心から近い割に山手線沿いから外れたことで(よそと比べて)交通の便が悪化し取り残されたが、その懸念が少しずつ解消され始めたことを表すと自分は思う。
実際、これとスパイラルで羽田空港直通高速バスができたりとなお改善中だ。

足りないものはあるが

縦貫線、エイトライナー、浅草駅問題……まだまだ問題は山積。
とりわけ培養線の貧弱さが課題。
北〜西〜南にかけてのエリアは、第一の宿場町がちょうど山手線上にあるのに対し、東は線の外にある。
歴史的に集散地となるこの拠点同士を直に結ぶものの少なさがネックとなろう。(北千住−錦糸町間は半蔵門線直通で改善されたが、北千住−赤羽・板橋/宿場は無いが錦糸町−豊洲間などの培養線がなお不足)

墨東リライズ

長年停滞していた下町エリアが活性化し始めた兆しといえると思う。そのきっかけは、やはりTX開業にあったのではなかろうか。
無論個別の動きは前々からあったろうが、それが下町エリアの再構築と再活性化というトータルなものになっていくのは、2005年以後のように思えるのだ。
しかし、下町をいけ好かない土壌となる土臭いイメージは払底しがたい。いかに誇張された下町イメージを実際に近い庶民派イメージに摩り替えさせてゆくかが勝負どころとなると思う。
まだ5年しかたたず始まったばかりだが、西方偏重の趣に一石を投じられるか、私は期待したい。

*1:改札外の意味。でもTX以外は改札を通らずに乗り換えられる北千住駅で、実際に改札外へ出る人は何割だろうか……^^;